ミハイル・カリキス《 Children of Unquiet》 2014年. シングルチャネル、カラー、ステレオ、15’30”. © Mikhail Karikis.


厚木たか《わたし達はこんなに働いてゐる》 (監督 水木荘谷)1945年.白黒、モノラル、18'18". © Taka Atsugi.


ヘクトール・サモサ《Inconstância Material 》 (英題 Material Inconstancy) 2012-13年.カラー、ステレオ、5'15". © Héctor Zamora.


岡本唐尊《ルンペンプロレタリア》 1925年.インスタレーション記録写真. 協力:倉敷市立美術館 © Touki Okamoto.

The Third Entity

【日時】:2015年1月13日(水)~1月27日(水)
【場所】:倉敷芸術科学大学11号館展示場「Zone」

厚木たか、岡本唐貴、ミハイル・カリキス、ヘクトール・サモサ
キュレーション : アサクサ、倉敷科学芸術大学 川上研究室

倉敷芸術科学芸術大学は、厚木たか、岡本唐貴、ミハイル・カリキス、ヘクトール・サモラによるグループ展「1: 第三の歯車」を開催いたします。ドキュメンテーションやフィールドリサーチの出力方法として記録メディアを取り上げ、移りかわる世代・政治・ジェンダーの通史的な視座を通して、コミュニティーのあり方を考察します。近代をつうじて集団形成の核をなしてきた労働活動は、マテリアルな生産から、サービスや情報を中心とする非物質的な創出へと移りかわってきました。こうした状況を背後に、アートにおける社会的関与の方法も、構築した状況を通じて未来をリハーサルする思考実験の場へと変容しています。本展では、特定の地理や歴史的地点を参照する4つの作品をとりあげ、これからのコミュニティー創出の鍵となる意識ーコラボレーション、ボランティア、権力の分散、公的資産と第三セクター、知識・エネルギー資源の共有ーを作品のうちに投影し、変化すべき現状を問い直します。

工場での大量雇用へと一斉にくみかえられた大正期の急激な変化を目の当たりに、岡本唐貴は日々の労働に従事する無産階級を擁護、プロレタリア文化運動に参加します。ポスターや機関誌のカバーなど多くのグラフィックデザインも手がけた岡本は、工場で働く労働者集団のありのままの生活を社会主義的リアリズムの立場から描いています。生涯画家であった岡本が、22歳で発表した《ルンペンプロレタリア》(1925年)では、高踏趣味をによわせる絵画を避け、素材や展示会場で拾ったファウンド・オブジェクトを組み合わせたインスタレーション作品を構成しています。ここに見られる縄のハシゴは、権威のあるものを下降させ、また弱い立場にあるもを上昇させるヒエラルキーの転覆を意味し、階級闘争に対する明確な意思表明と、プロレタリア美術を支える根底の倫理観を照らし出しています。

本の同時代人である厚木たかは、一貫してジェンダーの視点をドキュメンタリー映像に投じてきました。終戦の緊張が高まる1945年、藤沢市にある縫製工場にて女性工員を記録した《わたし達はこんなに働いてゐる》(監督:水木荘也、1945年)を制作します。「わたし達はこんなに働いているのに、なぜサイパン島では日本軍が玉砕してしまったのだろう。」肩を寄せあう女工たちの新聞報道から着想した本作は、個が全体性に回収される心理構造の危険と、過度の感情移入が引き起こす心理劇の極点を描いています。情報局の一方的な編集のため、厚木のイメージは本来の意図からはかけ離れ、押し付けられた虚構の物語との二重拘束のうちに、捉えがたくさまよいます。中心に対して周囲を従属させる管理モデルを過去のものとすることに、現代の出発点があったとすれば、ジェンダーの差異をも統制したこの歴史的地点に、現在に続くあらゆる問題の萌芽を見いだしうるのではないでしょうか。メキシコ出身のインスタレーション作家 ヘクトール・サモラによる《Inconstância Material》 (“Material Inconstancy” 2012-13年)は、第13回イスタンブール・ビエンナーレ(2013年)で行われたパフォーマンスの記録映像。36人のレンガ工が大学施設を占拠し、轟然とした掛け声のなかで一人からまた次の職工へとレンガを投げ交す運動のループが続きます。工事現場の一日を教育の現場に移した行為の再現は、建築素材として安価でありふれた土レンガと職工の身体性を介し、商品が終わりなく自転し続ける状況を生み出します。経済活動に再考をうながし観客を参入させるきっかけを与える本作は、商品の流通と過剰な顧客サービス、そして私的所有のために引き起こるさまざまな掛け引きに疑問を付します。とめどない流通の過程で、何が失われまた獲得されるのでしょうか。人的エラーや欠損を受け入れる眼差しがなければ、労働を達成する喜びさえ抑制されてしまうのかもしれません。

ロンドン在住のアーティスト・パフォーマー ミハイル・カリキスは、参加者の声を媒介として人間の記憶や想像力の可能性を探索します。イタリア・ト スカーナ州にある世界初の地熱発電所ーかつては5千人の労働者を抱えた村落も、近年のオートメーション化によって廃墟となりました。《Children of Unquiet》(2014年)は、こうして村から離れた子どもたちを再び集結し、発電所を占拠する映像作品です。子どもたちは過去の記憶を辿り、この土地 で耳にした毎日の音ー間欠泉から噴き出すしぶき音、発電所のパイプ管から絶え間なくなり響く低音ーを発声します。そして、生態にもとづいた経済モ デルと愛の生産力に触れたネグリ&ハート著《コモンウェルス》(2011年)の一節を朗読しています。人工によるエネルギー産業と自然による大地の音 響を結びながら、日々の風景をコーラスする参加者は、生まれ育った共同体とグリーンエナジーの始点に立ち返っていきます。  経済の衰退やエネルギー問題が問いただされながらも、集団の声が掻き消されてしまう昨今において、本展は次のような疑問を導きます。情報化した 現代にあってなお、私たちを地理的な集団性や特定の所得層のうちに閉じ込めてしまうとすれば、その要因は何なのでしょうか。コミュニティーの結束 が希薄になった現代にあって、最大公約数の社会問題にどのように取り組むことができるでしょうか。

『第三の歯車』は、本学「Education, Education, Education」プログラム第5回展として、アサクサと倉敷芸術大学川上研究室の共同キュレーション により企画し、倉敷市立美術館学芸員 佐々木千恵氏の協力によって実現いたしました。 (文章:アサクサ)

キュレーション : アサクサ、倉敷科学芸術大学 川上研究室

アーティスト

厚木たか(1907年、群馬県伊勢崎生まれ - 1998年没)は、ドキ ュメンタリー映画作家、社会活動家、反戦運動家。日本プロレ タリア映画同盟(プロキノ、1930-34年)解体後、英国の記録映 画作家ポール・ローサの《ドキュメンタリーフィルム》(1935年) を翻訳、戦前の映画製作現場に影響を与えた。PCL文芸課芸 術映画社勤務するかたわら記録映画のシナリオを執筆。《或る 保姆の記録》(監督:水木荘也監督、1942年)の構成を担当、 国民映画賞受賞。《転換工場》(監督:森永健次、1944年)脚本 担当。《われわれは監視する̶核基地横須賀̶》(監督:荒井英 郎、横須賀を映画で記録する会、1975年)がモスクワ映画祭平 和委員会賞、ライプツィヒ国際記録・短編映画祭金鳩賞をそれ ぞれ受賞。生涯にわたって、左翼運動、婦人運動に関わりジェ ンダー、紛争問題、社会的不公正をテーマとした映画制作に取 り組んだ。日本女子大学文学部英文学科卒。

岡本唐貴(1903年、岡山県倉敷市生まれ - 1986年没)は、 画家、活動家、現代美術家。1924年、若手アーティスト主導 による アクションの同人に推薦され、後に三科造形美術協 会に参加。翌年中核メンバーとして造形を結成、自身をネオ リアリズムに導いた『新ロシア展』(1927年、東京朝日新聞社 屋)の実現に尽力。1929年に創立した日本プロレタリア美術 家同盟(P.P.後にヤップ)の中央委員となり、文化運動を牽引 する。1932年、P.P.への弾圧により検挙・拘束。以後も黎明会 (1936年)、現実会(1946年)、点々会(1955年)などアーティス ト・グループの組成・参加を繰り返した。1933年刊行、即日発 禁となった《新しい美術とリアリズムの問題》をはじめ、自著・共 著による出版物多数。主な展覧会に、1975年『岡本唐貴展』( 横浜市民ギャラリー、横浜)、2001年『岡本唐貴とその時代』( 倉敷市立美術館、倉敷)ほか。東京美術学校彫刻選科中退。

ミハエル・カリキス(Mikhail Karikis 1974年、ギリシャ・テッ サロニキ生まれ)は、さまざまな音の発声によって、集団的な記 憶と想像力とを引き出すアーティスト、パフォーマー。参加者の 発声による協働的行動を通して、社会的、地政学的なコンテク ストを引き出し、声を「彫刻素材」として生活の諸相や職業アイ デンティティーをかたどる。2014年には、『Listening』(ヘイワ ード・ギャラリー、ロンドン)、『Mediacity Seoul』(ソウル美術館、 ソウル)、第19回シドニー・ビエンナーレ(シドニー)、『Assembly 』(テート・ブリテン、ロンドン)、『Inside』(パレ・ド・トーキョ ー、パリ)に参加。国際展では、あいちトリエンナーレ(2013年) 、マニフェスタ9(ゲンク、2013年)、第54回ヴェネツィア・ビエン ナーレ、デンマーク館(2011年)ほか。2015年には大和日英 基金アートプライズにノミネート、また本年の『The British Art Show』に選出される。カリキスはロンドン大学バートレット校で 建築を学んだ後、同大学スレード芸術大学院にてMAとPhDを 取得。ロンドン在住。

ヘクトール・サモラ(Héctor Zamora 1974年、メキシコ・メキ シコシティ生まれ)は、公共空間に遊戯的に介入し、レディーメ イドの拡張によって観客を取り込むインスタレーション作家。 公園をはじめとする都市環境の物理的特性を活かし、観客の 想像力をかき立てる状況を生み出して地域社会への直接的 な関係性を構築する。主な展覧会に、2012年に『Resisting the Present: Mexico 2000/2012』(パリ市立近代美術館、パリ)、 および『Art Unlimited』(メッセ・バーゼル、バーゼル)、2011年 『32° Panorama da arte Brasileria』(サンパウロ)、2010年に はリバプール・ビエンナーレ、あいちトリエンナーレ、2009年 第53回ヴェネツィア・ビエンナーレ、2006年第27回サンパウ ロ・ビエンナーレ、ハバナ・ビエンナーレ、2005年に釡山ビエン ナーレ、『Eco: Arte Mexicano Contemporáneo』(ソフィア王妃 芸術センター、マドリード)。Universidad Autónoma Metropolitana- Xochimilco大学にてグラフィック・デザインBFA取得。ブ ラジル、サンパウロ在住。